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Posted by さぽろぐ運営事務局 at

2015年03月21日

戦争がくれなかったもの

今日、タイトルに惹かれて手に取った、
長田弘さんの詩集
『食卓一期一会』
(1987年刊・晶文社)。

たべもの・たべることにまつわる
とてもあかるく・ユーモラスで・幸せな
詩がならんでいる。
きっと、たべること・たべさせることが
大好きなひとなんだろうなあ。

・・・そのなかに収められた一篇。

「戦争がくれなかったもの」

戦争にいった一人の男は遺さなかった、何も、言葉のほかには。
「食ふことが一番大切だ。軍隊はいかなるところにあつても、
先づ炊事する人がゐなければならない」

橋。河。青空。長いながい湖沼地帯。月夜。
靴から火花を出して、葬列のようにのろのろと歩いた。
行軍でばたばた落ちた。屍の累々と散らばる美しい丘。

雨。匪賊をもとめて、見渡すかぎりの麦畑を越えた。
鼻ちぎれた豚。片脚とんだロバ。胴中が二つになった老人。
砲声。多々的敵(ターターデー)。臭いと埃。石の道。星の下で眠った。

掠奪。放火。掃蕩。明日知れぬ命のことはかんがえなかった。
男は誌した。「水道の蛇口からガブガブ水を飲みたい。
子供のやうに食べものを食べたい。甘いものがほしい」

「紅茶。たとひ薄くとも濃すぎても、あゝなんと甘い湯!
焼もろこし、麦落雁、栗煎餅、蜜豆、甘納豆、栗おこし、
五家宝、磯部煎餅、八ツ橋、大垣の柿羊羹、さくらんぼ、

焼のり、焼塩、舐め味噌、辛子漬、鯛でんぶ、牛肉大和煮、
ビスケット、バタボール、白チョコレート、コーヒーシロップ、
ミルク、マーマレード、タピオカ、クラッカー、レモネード、
紅梅焼、人形焼、人形町のぶつきりあめ屋の飴、草餅、
小倉羊羹、砂糖漬けの果物、干菓子、干物類、黒豆」
戦争にいった男の遺した、戦争がくれなかったもののリスト。

撃たれて、死んだ。「痛むから休ませて貰ふ」といって死んだ。
戦争は、男に何をくれたか。戦争がくれたものはただ一つの自由。
「殺す自由を持つ者は、また殺される自由を持つてゐる」   

Posted by 独酔舎 at 21:37Comments(0)