わかるひとなら一目でわかる、ふふんとうなづく。
そう、これが「三線(さんしん=蛇皮線)」を弾くためのピックなのです。
別にこれがなくちゃ三線が弾けないというわけじゃない。いままでライブで観た唄者のほとんどは自前の爪や、ギター用のピックを使ってた。
先年亡くなった嘉手刈林昌が、ばかでかいベース用の三角ピックを使ってるのを観たときは「へぇ〜、あの大御所ですらねぇ!」と思ったもんだ。
むしろ、故・小渕首相以来の沖縄ブームの中で、ベテラン・若手問わず、この伝統的なピックを使うようになってきた気がする・・・
× × ×
自動ドアが開くと、台風17号がつれてきた南洋の湿った空気が「いらっしゃぁい!」とばかりにまとわりついてくる。ここは南国那覇・国際通りである。
ホテルの玄関を出て、右に100mほど歩くと、そこは数軒の楽器店がのれんを連ねる、ギター弾きとその家族にとってのデインジャーゾーン。
指は十本、手は二本。天下とっても二合半。
何より、我が家にはこれ以上の楽器君が暮らすためのスペースがない。あきらめよう。あきらめるんだ。
思うそばから、ショーウインドーの向こうで色とりどりの刺繍に飾られた三線たちが手招きする。
「なんくるない(どってことない)。なんくるないさぁ〜!」
そうだ!
デパ地下で、高価だがおいしい酒のつまみなんかを見つけて、どうしてもどうしてもほしくなったときに、
手近な試食コーナーでちょっとしたものをつまむと、気分が落ち着くことがあるぞ。
俺ってあったまいいじゃん!
× × ×
で、買ったのがコレ。
水牛の角でできたこのピック。
手に持ってみると、
・・・でかい(怒)!
サイズ的にはイチジクか、大きめの握り寿司くらいを想像してほしい。
「9」の字形のプロポーションで、細くとがった一端で弦をはじき、太く丸まった一端に穴が開いていて、ここに人差し指を突っ込んであやつるようになっている。
で、このピック、じっさいに使ってみると意外なほどに弾きやすい。これを使って三線を弾くのは初めてなのだが、というか三線自体ほとんど弾いたことないのだが(決して自宅のどこかに三線を隠しているわけではない)、
「ひょっとしてウクレレよりこっちのほうが向いてるんじゃないか」という錯覚を覚えるくらい自然に手が動く。
持参したウクレレを弾いてみたが、エレキギターでいう「スイープ」が面白いように決まる。アップ・ダウンのタッチの差が少なく、アクセントもつけやすい。
ハマグリのように分厚い刃先がポイントかな?
・・・よくよく見ればことピック、素手の状態で人差し指の爪に親指を添えて弦をヒットする、いわゆる「つまびき」の状態を牛角で再現しているのだ。
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昔、受験勉強してるときに、まぶたに塗ると眠気が消えるというふれこみの軟膏が流行ったことがある。
要はきつめのメンソ●ータムみたいなものなんで、塗りすぎると涙鼻水垂れ流しで受験勉強どころではなくなる。
この痛みをなんとかせねば!
慌てて水道で顔を洗うのは、ど素人である。
洗えば洗うほど、目は痛くなって止まらない。
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大学時代にエスニックフードのブームがやってきた。
タイやインドの辛いカレーを、ボ●カレー辛口くらいの気分で舌に乗せると、こめかみの皮膚から「ピュッ!」てな勢いで脂汗が噴出す。
この辛さをなんとかせねば!
慌ててコップの水を口に含むのは、ど素人である。
飲めば飲むほど、辛味は舌にこびりついて止まらない。
止まらないのだ・・・
× × ×
・・・長い長い戦いが終わった。
台風の影響を受けることなく、予定通りサイタマの自宅にかえりついた私の前に、この水牛ピックだけがころんと転がっている。さいわいなことに三線の姿は・・・ない。
これを、「国際通りの奇跡」と呼んで、わたしの強靭な精神力ともども、子々孫々まで語り伝えることとしたいものだ。
(この文章、わかるひとだけわかってくれればいいや!)